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ジャズバンジョーの話Update : 2019/01/29 Tue 13:48

ジャズバンジョーと言ってもモダンジャズをバンジョーで弾くわけではありません。モダン以前のトラッドジャズで弾く4弦や6弦のバンジョーのことを語ります。識者には釈迦に説法ですが、へーそうなの、と目から鱗の人も居ると思います。

リズムとか

トラッドジャズでのバンジョー、ソロの時、稀にメロディーを単弦で弾くこともありますが、たいていはジャカジャカとコードでメロディを追って弾きます。

リズムを刻む時、ジャズ以外のギターやバンジョーでは、コードストロークと呼んで、ジャカジャカやります。その場合、フラットピックを持つ右手の動きは、ストロークの他、ストラミングなどとも呼ばれます。しかしながら、トラッドジャズでのバンジョーのリズム演奏は、ストロークでもストラミングでも無く、言わばチョップです。そう、あの空手チョップのそれです。一刀両断にピックを弦に当てる。それだけです。

よく、「バンジョーのカッティングって軽やかでいいですね!」とお言葉を頂きます。「はぁ?」という気持ちを抑えて苦笑する僕がそこに居ます。実は、カッティング(コードを弾く時に左手の押弦をたまにミュートしながら弾く弾き方)、リズムギターでは当たり前ですが、バンジョーでは通常行いません。左手は押さえっぱなしなんです。音の短い楽器なのでカッティングするとコード感が無くなりますし、何より音量が半減します。

なので、バンジョーで(たまに演奏上の効果としてやることはありますが、)常にカッティングしてる人は、モグリか、ジャズを演ってない人のようです。

古い感じのニューオリンズジャズをやってる管楽器の人からは、バンジョーはダウンピッキングのみでアップピッキング無し、カンカンカンカンと4つ切り、つまりチョップがニューオリンズ・スタイルの正しい弾き方だから、そういう風に弾いて欲しい、いや、弾かないといけない、と半ば強制に近い要望があることが多いです。その要望が出る気持ちを僕は理解していますので、ご要望に沿うように頑張りますが、実は、御大Lawrence Marreroの演奏を聴けば聴くほど、そんな弾き方をしていないことが分かります。

   ▶御大Lawrence Marreroの演奏はこんな感じ

しかしながら、コードチェンジするときは必然的に左手は弦を離れます。その瞬間カッティングしているのと同じことがおきます。なんと、御大Lawrence Marreroは、そのタイミングでアップピッキングを入れてチャカチャカしています。よく聴いてください。たしかに毎度そうしています。これを擬音にしますと、|カン・カン・カン・カン|カン・カン・チャカ・チャカ|というような感じでしょうか。

これじゃ、野暮ったいというので、少し上手な人はチャカチャカのところを三連符にして一拍に収めます。擬音だと|カン・カン・カン・カン|カン・カン・カン・チャララ|のような感じになります。

この弾き方で、次の小節にコードチェンジを控えて、チャララのところをグリッサンド(左手スライド)する場合をホワイン・ストロークと言うそうです。また、グリッサンドしない場合はニューヨーク・ストロークというそうです。これはニューオリンズ・スタイルよりもディキシーでよく聴かれます。

いずれも、そこそこ速いテンポで効果的です。遅い曲でやりたい場合は、該当拍を倍テンポで、|カン・カン・カン・カン|カン・カン・カン・チャラララ|とやります。

リズム時の右手のピッキングポジションは、ドラムヘッド真ん中からネック寄り、ドラムヘッド真ん中からブリッジ寄り、の大きく分けて2箇所あります。リズムを弾く時はお好みでどちらの場所でも良いのですが、リゾネータの無いオープンバック・バンジョーや古いニューオリンズジャズを弾く場合は後者であることが多いです。ディキシーやプレクトラム・バンジョーを弾く人は前者であることが多いです。

ソロを弾く時、ディキシー、ニューオリンズを問わず、単弦ソロの場合はブリッジ寄りのポジション、ピッキングのアップダウンを駆使してコードソロを弾く場合はネック寄りのポジションとだいたい相場が決まっています。

特にニューオリンズ・ジャズですが、バンド演奏自体に独特のリズムを使うことがあります。主にドラムが先導するのですが、セカンドラインと呼ばれるそのリズムは、カリブ方面や南米のラテンぽい譜割りとアクセントになっています。バンドは普通に4ビートの演奏だけれども、バンジョーだけがこのセカンドライン・リズムでコードを掻き鳴らす場合があります。このスタイルは、ギターバンジョーを弾くDanny Barkerという人が得意にしていました。彼に影響された後進プレイヤーもこれを取り入れ、現在ではよく耳にします。前述のチョップとは全く違うサウンドとリズム感です。

   ▶Danny Barkerの演奏はこんな感じ

ギターバンジョーは、ギターと同じく太い低音が出ますので、ベースラインを強調して弾くことがあります。もともと誰もが演っていたと思われますが、Johnny St. Cyrがシカゴで録音に残したものが有名です。

   ▶Johnny St. Cyrの演奏はこんな感じ

楽器の話

閑話休題、トラッドジャズでのバンジョー、楽器そのもの変遷を書きます。

識者で無くても興味を持って調べれば分かることですが、歴史的にアフリカ由来の楽器が西洋式の設計で作られたのがバンジョーで、元々は5弦でした。完成された5弦バンジョーは。19世紀には黒人の手から離れ、白人が黒塗りで黒人楽団をイミテイトしたミンストレルショーなどで主に使われました。

現存する商品広告からは、4弦のテナーバンジョーが開発されたのは、おそらく20世紀初めの頃だと言われています。比較的新しい楽器なんです。例えば、マンドリンメーカーだったGibson社もテナーバンジョーの販売をその頃開始しました。ソプラノもアルトも無いのになぜテナーかと言うと、ヨーロッパのテナーマンドラ(アメリカでは単にマンドラ)の調弦を採用した楽器だからでしょう。当時は白人のマンドリン楽団が流行しており、マンドリン奏者向けに開発されたという説もあります。マンドリン楽団の流行が終わり失職した演奏家はバンジョーに持ち替えて、ラグタイムダンスバンドで職を得たそうです。まだ北部でジャズが始まる前の話です。

ミンストレルショーで使われていた5弦バンジョーを、室内楽でソロ楽器として使う試みが19世紀末にありました。それは現在で言うクラシックバンジョーで、クラシックギターと同じ概念により、タキシードを着た白人演奏家がクラシック曲やラグタイム曲を5弦バンジョーで演奏しました。

   ▶クラシックバンジョーはこんな感じ(Vess L. Ossmanの演奏)

20世紀になり、やがてクラシックバンジョーの流行も終わり、やはり演奏家はラグタイムダンスバンドで職を得ますが、コードを弾くには5弦が邪魔になります。そこで、5弦を取り去ったプレクトラムバンジョーという長い4弦ネックを持った楽器ができました。調弦はミンストレル以来の特殊な調弦が現在も採用されています。そう言えば、黒人のプレクトラムバンジョー奏者をほとんど見かけません。現在でも室内楽的な傾向が残っていて、ソロ重視のショー・バンジョー奏者はプレクトラムバンジョーを弾きます。

   ▶ショー・バンジョーのスターEddie Peabody

6弦のギターバンジョーは、やはりギター奏者がバンジョーの音量に恩恵にあずかるために作られたように考えます。こちらは欧州にも輸出されてフランスのミュゼット音楽の伴奏楽器としても使われました。太い低音をうまく利用してベースラインをリズムに組み込んだ演奏が多いです。

   ▶ミュゼット音楽でのギターバンジョー(Django Reinhardtの演奏)

ジャズの創始者と言われるトランペット奏者Buddy Boldenの古い写真にはバンジョー奏者は居らず、ギター奏者が加わっていた。ギターもベースも左利きというのは面白い。

19世紀末にはニューオリンズで演奏され始めていたというジャズですが、当時はテナーバンジョーがまだありませんから、コード&リズム担当としてギター奏者が加わっていました。やがて、音量の問題で、彼らはギターバンジョーに持ち替えるようになりました。1920年代半ばからの北部のジャズブームによるテナーバンジョーの普及からかなり遅れて、ニューオリンズにも少しはテナーバンジョーが導入されたようです。

調弦の話

テナーバンジョーはマンドラやビオラと同じ調弦で、下からC-G-D-Aと合わせますが、ナンチャッテで弾く人、特にギタリストにはこの調弦が障害になってなかなか演奏を習得できないという話をよく聞きます。やはり彼の地でも同じようで、そういう人達が考案したのかどうか分かりませんが、G-C-E-Aと合わせるシカゴ・チューニングという調弦があるそうです。僕は録音されたその調弦の演奏を聴いたことがありませんが、実際に試してみましたので、これもアリかなと思います。要はウクレレと同じ調弦でギターの四度上になります。(ギターのCコードがFになります。)

それでも、脳内転調が面倒というギタリストの中には、D-G-B-Eとギターと同じ音程に合わせる人が居るようですが、スケールの短いテナーバンジョー、これでは良い響きが出ずにみっともない演奏になってしまいます。もしギターと同じ音程にしたいのなら、プレクトラムバンジョーでそれを行ったほうが良いでしょう。プレクトラムバンジョーはC-G-B-Dと合わせますので、4弦と1弦を全音上げればギター調弦になります。

6弦のギターバンジョーは、ギターと同じ合わせ方で良いのですが、古い楽器などネックが短い場合は、短三度高く調弦します。CコードがEbになり、ジャズを演奏するのにちょっと都合が良くなります。実際にそういう演奏が数多く録音されています。

スタジオギタリストなどで、ディレクターの要望があり、急遽バンジョーを弾いて録音しなければならないことがあります。もちろんギター調弦でそれをカバーするのですが、プロの凌ぎとしてこれは仕方がありません。(Louis ArmstrongのHello Dollyのイントロ等)そういう局面が無い人は、バンジョー調弦でバンジョー奏法を習得した方が良いと思います。

余談ですが、5弦バンジョーの5弦を外して、ギター調弦で弾くようなことも少なからず見かけますが、楽器の構造上、弦が斜めに張られるのでよろしくありません。練習用ならともかくですが、見かけもいただけないので舞台で弾くのは避けたいです。どうしてもギター調弦をしたい場合はプレクトラムバンジョーを入手することをお勧めします。(特にプロの人は!)

続く(のか?)。

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