Category :: Django Reinhardt

東京スピークイージーUpdate : 2007/06/24 Sun 21:41

昨日23日土曜日、生徒さんに誘われて、表題のイベントを観る(聴く)ために吉祥寺のライブハウスに足を向けました。最近は他人のライブをマジに聴きに行くことが無かったので、半ば緊張しながら、生徒さんがキープしておいてくれた最前列に席に着き、最初から最後まで聴かせていただきました。

このイベントの趣旨は、戦前の音楽を演奏する若いグループ達を紹介しつつ、日本コロムビアが先日CDアルバムでリイシューした、「日本のジャズ・ソング」という戦前の日本のジャズ音源をまとめたシリーズとタイアップして、戦前の音楽を啓蒙しようと言うことだと、事前にネットで情報を仕入れていました。僕がこの30年ほど愛して止まない戦前のアメリカ音楽(含・一部の世界各地の戦前のジャズ)を、21世紀になっても日本の若い人達が熱く演奏しているという事実に歓びを感じながら、果たしてどこまでこの親爺を喜ばしてくれるのだろうか、という問いを持ちながらのライブ観戦になりました。

ライブは4バンドの対バンでしたが、ライブの前にイベントに華を飾るモガ(!)数人がステージ上で紹介されました。戦前の女給風の着物を着た人や、1920年代のフラッパーファッションを現代的にアレンジした装いを決めた人、普段の街では見かけることの無い、僕にとってイカシタ女性がスポットを浴びて笑顔を客席に向けていました。僕は、その中でもイートンクロップ+引き眉毛に黒いワンピースで戦前のプロマイドから抜け出てきたようなオネイサンにしびれました。(今度、僕らのライブに来て下さい。僕らもタキシードで決めますので、一緒に写真を撮りましょう。)

さて、ライブですが、スタンダードジャズ曲と戦前風に作ったオリジナル曲を混ぜながら、若い人達が戦前音楽らしきフォーマットの上にそれぞれのスタイル築き上げ、「観せる」ステージを作っていたことに感心しました。また、特に楽器演奏の面では何人かは非常に高度なプレイを行なっていました。普段の研鑽の賜物でしょう。僕が彼らと同じ年頃だった時代、(大阪に居ましたが、)とてもこのような音楽ではライブできるような状況ではありませんでしたし、いくら僕がやりたくても同好の士を見つけてバンドを組むことは難しかったです。僕なんかは、やっと今頃になって戦前風のバンドを組むことができたわけですから、とてもうらやましく思えました。

僕は同じ演奏家として、戦前音楽のデッドコピー(カバーに非らず!)をこのイベントに求めたわけではありません。デッドコピーを聴くぐらいなら音の悪い復刻CDを聴いた方が僕は良いです。その意味で、デッドコピーが少なかったこのイベントは楽しめました。(いくつかデッドコピーを堂々と演奏していましたがまあ良いでしょう)

このイベントをとてもポジティブに感じるように努力し、個人的には楽しめたことは事実ですが、親爺としてはネガティブに思えた部分もありましたので、以下に記しておきます。バンドの人は頑張って良い演奏をしてくれたので、このネガティブな感想はバンドに対して書くのではなく、イベントのプロデューサさんが今後検討して下さることに期待して、書く物です。

まず、ジプシージャズというのは戦後の音楽だということです。ジャンゴのフランスホットクラブはジプシージャズでは無く、単なる当時のジャズのひとつのスタイルなんです。(詳しくは以前書いたこの記事を読んで下さい。)特にこのイベントに出演した二組のジプシージャズをベースにしたと思われるバンドは(演奏が良かったにも係わらず)、フランスホットクラブを感じさせる戦前らしさが感じられません。演奏スタイルも明らかに戦後の感じでした。戦前を標榜するイベントでしたらジプシージャズは排除するべきだったでしょう。
次に、(何人かを除いて)演奏している彼らが本当に戦前の音楽を啓蒙しているのかどうかが怪しく思えました。「まずカタチから」ということが若い人にありがちなので、もしかしたらそこで止まっているのではないかと思えました。申し訳ないけど、戦前の音楽を理解し啓蒙していた人は、古いスタイルのハワイアンを演奏したバンドのフロントの3人と最後のバンドでラッパを吹いて歌った人だけじゃないかな、と感じました。

先に挙げたCDアルバム「日本のジャズ・ソング」では、当時の日本の音楽シーンでは、ジャズだけではなく、ハワイアンやシャンソン、タンゴ、ラテンまで含めた当時の洋楽ポップスをひとまとめにしてジャズというように表現していたことが分かります。ですから、日本・戦前・ジャズという三題噺でイベントを組み上げるのでしたら、ジプシージャズはさておき、シャンソンやタンゴのバンドくらいはライブに加えた方が良かったのではないでしょうか?今回のイベントで初めて戦前音楽らしき物に触れた人は、戦前には(狭義の)ジャズしか無かったと感じるのではないでしょうか?
(ちなみに、三題噺から日本というキーワードを取り去ってグローバルに考えるなら、アメリカでも南部の山の方はどうなる?キューバはどう?ブラジルは?となって、今回のイベント自体が茶番でしかなくなりますし、もっと狭く戦前ジャズという括りで考えると、他に戦前ジャズ系の立派なイベントはありますので、企画自体が無意味になったのでしょう。)
イベントの宣伝では、出演バンドは、先の「日本のジャズ・ソング」収録曲から何曲か演奏してもらう云々が書いてありましたが、実際は4バンドともそれを実行しなかったのではないでしょうか?良い演奏が聴けたから僕には問題ではありませんが、プロデューサ、イベンターとしてはこれは一種の詐欺行為だと自戒してください。

苦言失礼。祝ご盛会。次回のさらなる健闘を祈ります>主催者さん

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