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僕自身はジャンゴのギタースタイルのフォロワーだと自覚しているのですが、僕がやっている音楽がジプシージャズ(Gypsy Swing/Gypsy Jazz/Jazz Manouche)だと呼ばれると、ちょっと違和感があります。なぜならば、僕はジャンゴのように弾きたいだけで、ジプシージャズをやっているつもりが無いからです。
と、ここまで読んで、「え?!ジャンゴってジプシージャズじゃないの?」と思う人も多いでしょう。実は違うんです。
今まで、その違う理由を、「ジャンゴはホット・ジャズや戦後のビバップなど、アメリカのジャズに傾倒していた単なるジプシー出身の天才ギタリストであるわけで、ジャンゴ以降のいわゆるジプシージャズの人達はジャンゴが1930年代にやった弦楽器によるホットジャズのコピーをしているだけにすぎない」と言ってきました。これはこれで明確な回答なのですが、物証に価するものを提示できませんでした。提示できるのはジャンゴの残した演奏だけで、頭の悪い人には「なんだ、ジャンゴもジプシージャズも同じじゃないの」と思われるのが関の山でした。
ところが、最近もっと明確な答えを見つけました。僕はあまりCDを購入することは無いのですが、価格の安さ(アマゾンで1枚約1300円)につられて、個人的な興味も有り、「JAZZ À LA GITANE」というアルバムをVol.1から3まで入手したのです。この3枚のアルバムの中にジャンゴとジプシージャズの違いについてのヒントと明らかな物証を見つけることができました。
このアルバムは、タイトルの通り、ジプシーが演奏するジャズというものを古いSP盤から復刻して収録しています。ジャンゴがグラッペリと一緒に演奏している有名なホットクラブ五重奏団の録音も、噺の枕のような扱いで収録されていますが、主に、ジャンゴやグラッペリに影響されて、すぐにそれをコピーして演奏した当時のヨーロッパのバンドの音源なのです。特に、ジャンゴが弦楽器だけのジャズをやらなくなった1939年以降に、それらのコピーバンドがたくさん録音を残していることが分かります。中にはジャンゴの弟であるジョセフや親戚のリーダー録音もあります。つまり、ジャンゴはジャズをやりたくて、それを実践し、共演者がたまたまバイオリニストだっただけで(そのバイオリニストはジプシーではありません)、共演者がクラリネットやサックス、ピアノであってもなんら問題なかったのですが、ジャンゴがバイオリン+ギターのホットクラブ・スタイルで演奏しなくなっても、そのスタイルは商業的に或る程度支持され、そのスタイルの模倣で演奏するジプシーが1940年代にたくさん出現したというわけです。
このアルバムにも収録されているバロ・フェレというギタリストは、初期ホットクラブ五重奏団でリズム・ギターを弾いていた人で、ジャンゴの先輩格にあたります。ホットクラブ結成以前には、バロがソロを取っているバックでジャンゴがリズムを刻むということも少なくありませんでした。また、残された録音から分かりますが、ジャンゴのギタースタイルはバロにかなり影響を受けています。バロのジプシー情緒溢れるスタイルに、アメリカのルイ・アームストロングや他のホーン・プレイヤーの節をうまくミックスしたのがジャンゴだと僕は考えます。
この「JAZZ À LA GITANE」にはバロ・フェレやその身内であるサラヌ・フェレ、マトロ・フェレのソロを聴けます。また、これらのフェレ・ファミリーだけでの演奏も聴けます。それらは、その後のいわゆるジプシージャズのルーツとなる演奏だと感じさせられます。特に、アコーディオン主体のミュゼット音楽をギターに置き換えた物や、ミュゼットよりもジャズ寄りな演奏が得意だったギュス・ヴィズルというアコーディオン・プレイヤーとのセッションは、ジャンゴのホットジャズとは明確に区別できる今日のジプシージャズの雛形があるように思います。なにより、右手首を使わずに肘の動きだけで行なうピッキングから来るフラメンコ的なギターの音色は現代のジプシージャズギタリストと全く同じです。(ジャンゴはフェレ・ファミリーとは違って、手首も上手く使って弾いていたようです。だから電気ギターも上手に弾けたのだと僕は思います。)
というわけで、SPの復刻ですから音は良く無いですが、現在のジプシージャズが何処から来たかが分かる、とても良い資料にめぐりあいました。あらためて、ジャンゴの音楽はジプシージャズではないということを耳で感じた次第です。