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僕は、ジャンゴがやったアコースティックなストリング・ジャズや、いわゆるジプシー・ジャズが好きなので、自分自身もそのような音楽を演奏することを楽しみとしています。しかしながら、ジプシー・ギター愛好家はジプシーによる演奏だけを追求することが多いのですが、僕は自分が経験してきたアコースティックなスイング・ミュージックをベースに、気楽に演奏を楽しみたいと考えています。
僕は、元々がブルーグラス・ミュージックのバンジョー・プレイヤーで、現役でライブなどもやっています。ブルーグラスは、ジプシー・ジャズと同じくアコースティックな音楽で、楽器演奏のスリルが楽しめます。また、アコースティック・ギターによる、フラット・ピッキング・アドリブが大々的にフューチャーされるのも、これら両者の共通点でもあります。ブルーグラスやフォークをベースにして、様々に派生したアコースティック・スイング系の音楽がアメリカに多くあるのですが、それらは全てと言って良いほど、ジプシー・ジャズのエッセンスが臭います。僕は、そういう音楽が大好きで育ちましたので、ヨーロッパのジプシー・ミュージックだけに拘らず、どちらかといえば、アメリカのジャズやカントリー側からのアプローチとして、ジプシー・ジャズを演奏するようになってしまいました。
カントリー・タッチのジプシー・スタイルは、日本のジプシー愛好家達からは好まれていないようですが、ギターの歴史の上で、それらは重要なスタイルであると僕は考えています。アメリカのギター・シーン(ジャズは除きます)は、ジャンゴのギター・スタイルを自分のスタイルに取り込むことで、大きく変革した時期があります。最初は1940年代のレス・ポールで、初期のレス・ポール・トリオにおいては、完璧と言って良いほど、ジャンゴやホット・クラブの演奏をコピーしていました。その演奏がビング・クロスビーに認められてブレークし、後のメリー・フォードとのコンビでの大ヒットに繋がりました。レス・ポールと同じ時期にカントリー側でも同じようなプレイヤーが居ました。チェット・アトキンスがその人です。
1940年代はまだまだそんなに栄えていなかったナッシュビルで、スタジオ・セッションマンが集まり、カントリー・オールスターズという名前で、弦楽器だけによるジャズが演奏されていました。その中でのチェットの演奏は、ジャンゴそのままのソロを弾くことがあり、とても目立ちました。
アメリカのギター史にその名を残すこの二人が、そういうアプローチで自身の音楽を築いていったことは、ジャズ側のプレイヤー達がチャーリー・クリスチャンのスタイルだけを昇華させていったことに較べて、とても面白いことだと思います。前述のブルーグラス・ミュージックでは、1960年代にクラレンス・ホワイトという、後にロックのバーズで活躍するギタリストが、それまでのフィドルをベースとしたブルーグラスのリード・ギター・スタイルにジャンゴのスタイルをフュージョンさせました。その後登場する、トニー・ライスを代表とするブルーグラス・ギタリストは全てクラレンスが実験したスタイルを踏襲しています。
そんなわけで、僕は、ジャンゴの研究はもちろんとして、カントリー・サイドでジプシーぽく弾くギタリストにも興味を持って接しています。どうせ日本人がジプシー・ジャズをやるわけですから、研究の過程は別として、自分の音楽表現の上で、ジプシー至上主義に拘ることは無いと考えるからです。
で、僕の演奏スタイルですが、僕は一時期プロ・ミュージシャンとして暮らしていたことがあって、バンジョーだけでは食えずに、必要に迫られてギターを覚えました。場末のジャズバンドのトラというのが多く、一刻も早くジャズ・ギターを覚えなければならないと考えました。そこで、一番シンプルで、かつ必須であるチャーリー・クリスチャンのスタイルを勉強したのですが、現在、ジプシーっぽいギターを弾く場合でも、コード感覚やタイミングの影響がそのまま残ってしまっています。その頃、ディキシーバンドでテナー・バンジョーも弾いていましたので、現在でもリズムに回った時のコードワークは、テナー・バンジョーのそれが参考になっています。また、ブルーグラスやカントリーのギターでは、スイープではなく、オルタネート・ピッキングでどんなに速いソロでも大きな音で弾くことが当たり前ですので、そのあたりも影響があります。特に開放弦での速弾きやトレモロは、ブルーグラス・ギターの真骨頂ですから、ジプシー・スタイルを弾くときにも役立っています。反面、ジプシー・スタイルを覚えるのに苦労したのは、ハイポジションでのアルペジオでした。これはスイープ・ピッキングやダウン・ピッキングを会得しなければあの感じが出せないからです。今ようやくそれらしく出来るようになったと思います。ビブラートやチョーキングは、一時凝っていたブルース・ギターの勉強が役に立っています。
Gypsy in Texas / Hikaru Hasegawa
左の画像は、僕が1999年に出したギター・アルバム「Gypsy In Texas」のジャケットです。録音は1994〜5年頃に行いましたので、当時の僕のジプシー・ギターのスキル一杯で演奏しています。また、ガチガチのジプシー・ギターではなく、未熟ながら曲調とマッチさせてなるべく唄うように弾きました。このアルバムは現在絶版です。
他のジプシー・ギター愛好家もそうだとは思いますが、僕もジャンゴの他に好きなギタリストはたくさん居ます。しかし、僕の場合は、前述のようにジプシーにとらわれずに、許容範囲が広いです。その中でも、セルマー・マカフェリの弾き手として、一番好きなのは、オスカー・アレマンです。彼はアルゼンチン出身のラテン系ギタリストながら、1930年代、つまりジャンゴと同時期に、フランスで素晴らしいジャズを、バイオリンのスヴェン・アムッセンらと演奏していました。また、ジャンゴの親友だったとも言われています。ジプシーでも無い彼が、後にジプシー用のギターとして認知されるセルマー・マカフェリを弾いて、ラテンのテクニックを使い、ジャンゴに匹敵する演奏をしていたことを、日本人やアメリカ人がジプシー・ジャズを演奏することと重ね合わせて、なぜかうれしく思います。
そういうわけで、僕はジプシー・ジャズ・スタイルの演奏は好きなのですが、バンド編成や選曲まで真似をするのは、アソビの範疇です。僕がギターを弾いて、現在活動しているバンドは、Yellow Django Revivalです。ホームページをご覧になると、なんとなく分かって頂けると思います。タイミングが合えば、一度ライブにお越しください。