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40年余前、僕がまだブルーグラス・バンジョーを弾き始めて1年も経たない頃から僕のアイドルだった、Eddie Adcockの新譜が出ています。新譜と言っても、1963年録音ということですから、50数年もお蔵入りになってた録音です。
なぜお蔵入りになっていたかというと、これはアルバムではなく、個人的なデモ・テープだったということです。録音メンバーは、 Eddie Adcock – bj; Pete Kuykendall – g; Tom Gray – bs; Barry Worrell – dr; で、Kuykendallがエンジニアリングをしたそうです。Tom Grayのベースソロがほんの少し聴けるだけで、あとは全てバンジョーソロというのは、アルバム目的ではないデモ・テープならではの構成ですね。ドラムがブラシオンリーで入っているのも、ジャズ風味の収録曲を活かすためのプロデュースだと思います。Tom Grayが弾く4ビートのベースとブラシが大変マッチしています。
普通、ブルーグラス・バンジョーのデモ・テープと言えば、あの八釜しい3フィンガー・ロールを期待しますが、このCDでは一切それがありません。もちろん全てのソロは3フィンガー・スタイルではありますが、ロールを全く行わずに、Eddie Adcock独自のギャロッピングというスタイルや、スチールギターから拝借したようなスロースタッフ奏法で弾かれています。Eddie Adcockのギャロッピング奏法は、ギターの名手Chet Atkinsやその先達であったMerle Travisのギターで行うギャロッピング奏法を5弦バンジョーにアダプトしたもので、この1963年時点で完全に完成されています。初めて聴く曲も多いのですが、後に再録音し、自身が参加していたThe Country Gentlemenのアルバムに収録された曲が6曲収録されています。聴き比べると面白いです。彼の代表曲Blue Bellなど、元ネタのMerle Travisと同じくブリッジ部分もちゃんと弾いています。
かなり自信があった録音のようで、完成後すぐ、ナッシュビルでプロデューサ業もしていたChet Atkinsにテープを送ったそうです。Chetはちゃんと聴いてくれて、返送されたテープにはポジティブなコメントが添えられ、「できることなら君のギターが聴きたかった。」と最後に書かれていたそうです。このテープから7年後、Eddieはナッシュビルに移住してギターを弾くことになります。
ファンなら、びっくりして座り小便してしまい、ヘビロテで聴くことが間違いないこのCD、今頃になってアルバム化されてリリースされたのは、ビジネス上は分かりませんが、ファン心理としては奇跡のように思います。これを出したら終わりでしょ、という気持ちもあります。ご存命でまだまだ現役のEddie Adcockですが、高齢で体調も芳しくないという情報が日本にも伝わってきます。どうか、まだまだお元気で新作をリリースしてください。