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その頃は大阪に居ましたが、20年くらい前に「トラッド・ジャズ」という言葉を使ったら、ミュージシャンにも「???」でした。18年前に東京に出てきましたが、こちらでは当時から普通に通じました。
この有名過ぎるDjango Reinhardtの20枚組LPの8枚目のジャケットに使われた写真は、1939年、渡仏楽旅中のDuke Ellington一座とジャムセッションに興じるDjango のバンド。
トラディショナル(伝統的)なジャズという意味で僕は使いますが、間違ってたらご容赦ください。で、実体は何かと言うと、僕が考えるトラッド・ジャズはビバップ出現以前に演奏されていたジャズ一般をトラッド・ジャズとして考えています。たとえ現代のミュージシャンが演奏するジャズでも、ビバップ以前のスタイルを踏襲(あるいはミュージシャン自身が啓蒙実践)しているものはトラッド・ジャズと呼ばせて頂いています。(これも間違っていましたらご容赦くださり、正確なところをご教示いただければと思います。)
ジャンル分けは不毛だと僕は考えますが、ビバップの出現を境として最前線のジャズでは、歌い方(アドリブの仕方)が全く変わってしまいます。ビバップはやがてモダンジャズという括りになり、現在のジャーナリズムではジャズ=モダンジャズと考えた方が話が分かりやすくなっています。逆にビバップ以前のジャズについてはジャズの範疇に入れて考えないばかりか、聴いたことも無いというミュージシャンやジャーナリストも少なくないようです。
話しを分かりやすくするために、ビバップ以前のジャズをトラッド・ジャズと呼ぶというのが、僕のスタンスです。たぶん、他の方もそういう意味でトラッド・ジャズという言葉をお使いだと思います。また、現代でもその時代のジャズの演奏イディオムをしっかり踏襲し、再現音楽ではなく自分の解釈で演奏する演奏家がたくさん居ます。自分もその末席に加えて頂いていると考えています。
ビバップ以前と言っても、その期間は50年程あって、その演奏スタイルは時代や地域によって色々違います。云わく、ニュー・オリンズ、シカゴ、ディキシー、スイングetcのスタイルがあるということです。それらの細かい解説は他所の権威あるサイトをご覧いただくとして、ここでは僕の専門に近いジプシー・ジャズについて申しあげたいと思います。
ジプシー・ジャズという呼び方も、歴史上つい最近使われるようになったわけで、それまでは、単にジャズと呼ばれていました。ただ、本場アメリカではなく、フランスのパリにおいて、有能な弦楽器奏者達が弦楽器だけでジャズの演奏を始め、代表するミュージシャンがジプシー出身のDjango Reinhardtであったために、戦後にジプシー中心にその演奏スタイルがフォローされ、ほんの最近になってそれをジプシー・ジャズと呼ぶようになりました。(ヨーロッパでは、ジャズ・マヌーシュと呼ぶ場合もあります。)
単に呼称だけの問題で、演奏スタイルは同じなのかというと、実はそうではなく、現代のジプシー・ジャズでよく演奏されるジプシーボサと呼ばれる原始的な8ビートの曲や、元々アコーディオンで演奏するミュゼットと呼ばれるジャンルの曲などは、Django Reinhardtは演奏しませんでした。それらは、概ね1980年代以降のRosenberg Trioに代表されるギター・バンドが流行らせた現代の演奏スタイルです。1950年代にミュゼットをギターで演奏し始めたMatellot Ferreの1980年代のインタビューで、ミュゼットをギターで演奏することはジプシー・ジャズにおけるビバップだというようなことを語っていました。複雑な旋律のテーマを実装するという意味では正にその通りだと思いますが、音楽的にはビバップとは全然違うものですし、ジャズがトラッドなスタイルからビバップやモダンジャズへ移行したというのとは全く逆方向に、ジプシー・ジャズはどんどんエスニックな方向に向かったと考えます。断定的な物言いをすると現代のジプシー・ジャズ(あるいはジャズ・マヌーシュ)はジャズというよりも、ジャズからドロップアウトした民俗音楽とも考えられます。
しかしながら、ジプシー・ジャズがジャズとは名ばかりのエスニックな音楽になってしまう前の時代、つまりDjango存命の1953年以前は、Djangoやフォロワーの演奏はトラッド・ジャズの1分野としてあつかわれました。Djangoが亡くなるまでの生涯に残した800回超の録音の7割程度は、ホーンプレイヤーやドラマー、ピアニストを加えたトラッド・ジャズのセッションですから、それは間違いないでしょう。Djangoは特筆すべきジャズマンとしてジャズ史上に記録されています。そして、Djangoも最晩年にはビバップへの移行を試みています。もしもう少し長生きしていればバッパーとしても名を残していたかもしれません。
この動画は1938年に英国BBCが制作したDjangoのPVです。オーケストラやビッグバンドのジャズに対してのコンボのジャズをHot Jazzという表現で案内していますが、当時は、Django ReinhardtやStephane Grappelliの音楽が普通にジャズとして紹介されていることがよく分かる映像です。
今から10年位前から、日本ではトラッド・ジャズとしてのジプシー・ジャズではなく、ヨーロッパ・ローカルなマヌーシュ・ジャズのプロモーションが精力的に行われた結果、フランスやオランダで流行しているギターバンドの音楽として若者を中心にフォロワーが増えています。その結果、幸か不幸か、若い人はDjango Reinhardtがその分野(マヌーシュ・ジャズ)の創始者であると誤認していることが多いようです。(残念ながら、前述のように、マヌーシュ・ジャズという括りの音楽は、Djangoの後進が始めました。)
ただ、世界的な動きを観ると、ウッディ・アレン監督の映画作品「ギター弾きの恋」以降のトラッドジャズ分野でのDjangoの再評価は素晴らしく、ジャズの聖地ニューオリンズなどではトラッド・ジャズのイディオムに則ったジプシージャズ・フォーマットのバンドが活動していますし、トラッドスタイルの若手クラリネット奏者No.1だとも言えるEvan ChristopherのグループなどはDjangoの1940年代の編成そのままで演奏し、ヨーロッパでも高い評価を受けています。
僕はこの数年、自分のバンド以外にも、トラッド・ジャズのライブや、セッション、フェスティバルに呼んで頂く機会が増えました。決してジャズ・マヌーシュでは無い本来のジャズのアプローチで、Django方面の演奏を啓蒙できれば本望と考え、演奏を楽しませて頂いております。昔は考えられませんでしたが、演奏終了後にオーディエンスの方からDjango云々で感想をいただくことが増え、大変嬉しく思います。
鳥の目でDjango周辺を紹介いただきありがたいです。蟻の目、耳で一つずつ聴きながら歩いてきた者には何と大きな視点か。もう一つ、ビバップ以前のジャズ一般というところをもう少しわかりやすく教えていただけませんか。
ビバップについてはwikiでの記事が参考になりますが、ビバップ以前を語るとジャズの歴史を紐解くことと同義になり、(自分の性格から)書籍を一冊書き上げるような大変な作業を予測して、「細かい解説は他所の権威あるサイトをご覧いただくとして」と記しました。たとえば、 http://cafeblue.com/jazz/lecture/h-menu.html のようなページの「その5」までに纏められています。(記事の内容はおおよそその通りだと思います)
実は、ビバップ以前の時間のほうがビバップ以後よりも長いという捉え方ができます。そして、そのスタイルもビバップ以前の方がバラエティに富んでいたと考えることもできます。ただし、現在のジャーナリズムではビバップ以後のジャズをジャズと呼ぶようです。
ありがとうございました