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ひょんなことで、上等のMARTIN D-18のリペアをやっています。
リペアと言っても、ボディが割れるとか、ブレイスが外れるといった致命的な故障を直すのではなくて、ペグヘッドの割れを接着するという程度のものです。故障の症状は、1〜3弦のペグ穴とネジ穴沿いにクラックが入って、ペグヘッドが2分するというような感じです。弦を張るとペグ自体がグラグラして割れが酷くなり、演奏に耐えられない状態です。そもそもチューニングができないでしょう。
早速ギターを預かって、ペグを外し、一旦、完全に割ってしまいました。そしてタイトボンドで接着〜クランプしています。二昼夜ほどで完全に接着できるでしょう。
このマーチンはカスタム・モデルで、戦前のD-18を復刻したものです。指板とブリッジが通常のローズウッドではなく、エボニーでできているのが戦前の18の仕様です。またブレイスの位置も現在のものよりネック寄りにあるため、ブリッジはブレイス位置より完全に離れて、独特の明るい大きな音がします。ただし、弦の張力には弱く、ボディに負担がかかるために、後のモデルでは徐々に現行モデルのように改良されてきました。素晴らしいサウンドを持つ楽器ですが、リスクも大きいわけです。
この故障は、移動中のショックは大した原因ではなく、楽器自体の仕様に原因があると考えられます。それは前述の仕様ではなく、ペグ自体にあると考えます。この楽器に装着されているペグはWavery製のOldクルーソンのレプリカで、時代考証を正しく反映させています。このペグ自体も高級品で、セットで3万円くらいするものだったと思います。ところが、このペグは一個ごとに裏側の2本の木ネジだけで固定されるために、弦を張った場合は、テコの原理でシャフトの先端に強いモーメントが掛かり、ペグホールを圧迫してしまいます。同じ力がネジ穴にもかかります。現在主に使われるロトマチック型ですとペグホールの表からブッシュを兼ねたボルトナットで固定しますので、この負担が小さいのですが、クルーソンのオープン型では、かなりの力がペグやペグホールに掛かってしまいます。ネジ穴がペグホールに近いことも構造力学的にペグヘッドの強度を弱める原因になっています。その上、木ネジが緩みますと、ペグが遊び、テコとしては自由に力を掛けられるようになります。ネック材が比較的柔らかなマホガニー材であることも相まって、今回の故障となったのだと僕は思います。
ギターに限らず、自動車や自転車でもそうなのですが、ネジの緩み・遊びには普段から注意しておかなければならないということですね。