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第33回宝塚ブルーグラス・フェスティバルが、今年も、先週末4日間無事に開催された。僕は金曜日から参加した。
木曜日の深夜バス最終便で大阪へ向かい、金曜日朝8時半大阪駅到着。駅高架下の食堂街で、安くて有名なモーニングサービスで腹ごしらえをした後、各駅停車でJR三田駅まで行った。そして、会場までタクシー。ココ最近、毎年このパターンだ。しかもタクシーの運ちゃんとの会話も毎年同じで、何十年もやってるフェスについての愛想話である。
会場に到着して、秋元慎さんを見つけ、すぐに美味しいバッテラとビールをご馳走になった。朝からビールを飲むのはフェスでのお約束であるし、年に何回かしか帰れない関西の味覚を味わうのも、毎年宝塚フェスへ行く、ひとつの理由だ。慎さんとは20年来の知り合いであるが、この時初めて、唄のジャムをした。お互いボーカリストでは無かったからだ。慎さんは、最近、唄に目覚めたらしい。レフティの00-18で古いヒルビリーやブルーグラスを気持ちよく唄った。
しばらくすると、天才少女フィドラーであるアニーちゃんの顔を見れた。彼女は日本人とチェコ人のハーフで、カルフォルニア在住である。昨年からこの時期にフェスに合わせて、里帰りを兼ね来日しているそうだ。昨年も素晴らしいフィドルを聴かせてくれたが、今年はさらに上手になっていて、ジャンゴやジプシー物にも興味を持ち出したとのことだ。それで、数曲、スイング曲をジャムをした。お上手でした。末恐ろしい。
今回ギターのトラを頼まれているAgent Of Kのフィドラー、黒川かほる嬢の関西の友人達が大挙到着したのは午後も少し回った頃だ。早速ご挨拶に伺い、ここでもビールで歓待された。フェス、ビール、とくれば、当然ながらジャムが始まる。そして、Agent Of Kのリハーサルも少しやらせてもらった。
金曜日夜の出番は、11時から12時あたりに、前述のAgent Of KとYellow Django Revivalの二つの予定だった。それに、Tori Unitが加わった。Tori Unitは、ここ10年近く酒害で苦しんでいたマンドリンの吉津さんのバンドだ。昨年から本格的な依存症の治療を始めて、今年、完全に復活した。10年前と同じ素晴らしいマンドリンを聴かせてくれた。彼の治療は、相棒の川瀬さんの尽力で実現した。川瀬さんは多忙の合間を縫って、フェスまでサポートしにきてくれた。持つべき物は良い友達である。また、川瀬さんは、今年正月にリリースされたジャンゴ・ラインハルト追悼CDアルバム「マカフェリズム」で、共演させていただいたギタリストでもある。Yellow Django Revivalでも、サイドギターでお手伝いしてもらうことにした。
Agent Of Kは、フィドルとギターのデュオで、古いフィドルチューンを2曲演奏した。1920年代から30年代に、山から町に伝承音楽が降りてきた頃の感じでギターを弾いたつもりだが、うまく演奏できたのだろうか。Yellow Django Revivalは、同じくバイオリンとギターのデュオで、地味にやるつもりだったが、川瀬さんが加わって、トリオで少しは濃い演奏ができたと思う。
今回のフェスは、テントの数が目立って減ったようだ。ベテランが歳老いて、日帰りで楽しむバンドが増えたからかもしれない。その分、学生さん達のパワーが目立った。人数、演奏、共に目を見張る物があった。これから15年後、老人は確実にこの世から消えてしまう。その時に、まだフェスが有るように、今の学生さんには、卒業しても音楽を続けてもらうことを切望する。僕らや僕らの先輩方が、そうやってコミュニティを何十年もキープしてきたからこそ、学生さん達が、今、フェスで楽しめるのである。このユートピアを後世に伝えて欲しい。
金曜の夜は、秋元さんと一緒にオールドタイマーのジャムに加わって、古いダウンビートなリズムギターを何時間も弾いた。僕はサムピックで弾いたけど、生指で弾いた秋元さんは、とうぜんマメができたようだ。飲みながら弾き、弾きながら飲み、深夜かあるいは早朝、崩れるように就寝した。
明けて、土曜日朝、というより昼。僕はまだ寝ていた。前夜の酒が原因ではなく、ココ最近、睡眠が取れていないので、起きる必要を心が感じていなくて、単に寝ていただけ。しかし、飲ませすぎたのでは無いかと、オールドタイマーな皆さんが心配してくれていたようだ。心配ご無用、最近はあれぐらいでは酔い潰れない。親切なオールドタイマーさん達が一人分キープしておいてくれた朝食を有り難く頂きながら、目を醒まし、またビールを頂いてジャムが始まる。そのうちに、先日から竹の研究で来日しているジミー・トリプレット氏がやってきた。僕は彼のことは全く知らなかったのだが、アメリカのオールドタイム界では、大変なフィドラーであるとのこと。各地のフェスでワークショップの先生として、伝統的なフィドル・スタイルを完璧に指導しているそうだ。早速始まったジャムで、実際の演奏を聴くと、やはり凄い。はっきり言って、オールドタイムのジャムは、参加する各プレイヤーが自分のテンションで気持ちよくなれば良いだけのパーティーだと、僕は思っていたのだが、それが間違いであることが分かった。彼のフィドルは、終始一定のグルーブをジャム全体に提供している。それが立場上のサービスなのかどうかは僕は分からないけれど、明らかに日本人だけでやっているジャムとは違った。オールドタイムは、伝承されている地域でグルーブや曲が全然違うとのことだが、もし、ああいうフィドルやグルーブが本場のひとつの正しいスタイルであるとしたら、日本のプレイヤーも真似してはどうだろうか。きっと良い物が生まれると思う。
僕の土曜日夜の出番は、Agent Of K、Yellow Django Revivalと、最近1stアルバムをリイシューしたSouthern Trainだ。Agent Of Kは、昨日の編成にマンドリンが加わり、1930年代のラジオで聴けたようなストリング・バンドへ変貌し、さらにモダンな演奏になった。(右画像)マンドリン・プレイヤーは、名古屋から単身参加のマルチ・プレイヤー、清水さんだ。大変たくさんの引き出しをお持ちの清水さんのプレイは、どんな楽器でどんなプレイをしてもアベレージ以上のサウンドを聴かせれくれた。バーサタイルなオールドタイム・ミュージクを標榜する黒川かほる嬢とは、とても気が合うようである。
Southern Trainは、昨年と同じく、20年前のメンバーによるリユニオンだ。しかし、僕はバンジョーを持って来ていないので、ギターで参加した。選曲は20年前と変わらないが、演奏が選曲にフィットし、歳相応になったと感じた。実は、ステージ前に睡魔が訪れて、出番ぎりぎりまで人知れずくたばっていたのだが、ステージでリフレッシュすることができた。Southern Trainの楽しい演奏が終わり、後残すは、Yellow Django Revivalの出番だけとなった。土曜日夜のYellow Django Revivalは、大阪の小寺一平さんにベースで加わっていただき、ギター、バイオリン、ベースのトリオ編成で演奏した。(小寺さんは、フィドルの大矢さんのソロアルバムで、前述の吉津さんと共に演奏したことがある。)この時の演奏は、このページで聴ける。
前述のジミー・トリプレットさんが、ステージに上がったのは、午前1時を回ってからだ。京都の高木バスコ氏のクローハンマー・バンジョーとデュオで、本場の正しいフィドルを聴かせてくれた。たった二人だけなのに、何人もが演奏しているような濃厚なグルーブ感を感じた。しかも、そのグルーブは、曲の頭から終わりまで終始一定だった。ブルーグラスやカントリーのファンには、粗野だと思われがちなオールドタイム・フィドルが、こんなに整理されたグルーブが出せたことに、深夜満員のオーディエンスは、僕と同様、きっと驚いたと思う。
土曜深夜は、二晩目で、さすがに疲れて、早々に就寝し、日曜日もゆっくりと起きた。例年ならステージで最後のジャムを楽しむところだが、バンジョーもフィドルも持っていかなかったし、早く町に出て大阪の美味しいものを食べたかったので、午後一には会場を後にした。三田駅まで車で送ってもらい、JRと阪急を乗り継いで梅田に出た。ここ最近、毎回フェスの後で梅田周辺の低料金グルメを楽しんで帰るのだが、今回の大阪グルメツアーは、天六の格安大阪式江戸前寿司を堪能した。満腹と共に大阪を後にし、帰路に就いた。