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ちょっと前までの日本の歌謡曲には、大きく分けてポップスと演歌という区別がありました。ちょいと昔のニュー・ミュージックや今のJ-POPというのは、このポップスの区分に入ったと想います。歌謡曲論をここで打つつもりはありませんが、歌謡曲で言うところのポップスは、アメリカやヨーロッパの流行歌(時代によってジャズ、シャンソン、ラテン、ロックといろいろありますが…)を、(欧米での流行とリアルタイムで、)デッドコピーしないまでも、サウンド(曲風)というものに著作権が認めれているとしたら、ほとんど盗作と呼べるものばかりでした。また、一方で「カバー」という開き直った手法でのポップスも人気を獲得したことがあったようです。
日本の戦前の流行歌(昔は歌謡曲とは言わなかった)でも、この傾向は同じでしたが、今日、演歌と呼ばれる曲想の楽曲は逆に様式を模索している状況でした。日本のレコード産業が本格化するのは、昭和3年のマイクロフォン吹込み導入以降ですが、当時の一般的な日本人は江戸〜明治の端唄・地歌・小唄のようなメロディしか理解できなかったようです。それに対して、洋楽は大正オペラや軍学、それに唱歌という形で年少者やインテリに少しは入り込んでいたようです。特に、鹿鳴館以来の、ダンスがインテリの教養であるという屈折した西洋指向が原因かどうか分かりませんが、すでに欧米で流行していたフォックストロットというリズム(ステップ)でのダンスのための楽曲(後のジャズ)をインテリや好事家が受け容れたことにより、レコード産業の下、演歌よりも先にジャズ的な曲想が流行歌として認知されたと思います。今で言う、ポップスですね。すぐ後に、そのジャズ的なリズムや演奏に端唄的なメロディが載って、今の演歌の元となる流行歌の形ができあがったように思えます。たった数年の間のことですが、時系列で流行歌の音源を追うと、いろいろ面白いことが分かります。
さて、日本でのジャズ演奏の発祥や歴史については、他のサイトを検索していただくとして、僕がいろいろ聴いた当時の流行歌としてのジャズ音源で気に入ったものをいくつか列挙してみます。
●カバー物(歌詞は翻訳か新たに作詞)
エノケンやバートン・クレーンのジャズカバーはイロモノだと思うので、僕はジャズ的には評価していません。しかし、両者ともジャズを理解していると思うし、伴奏の演奏は素晴らしく本格的なジャズだし、ジャズを流行歌として日本に普及させた功労は讚えたいです。また、ミッヂ・ウィリアムスは本物のジャズシンガーですから、ここでは除外しておきました。
●オリジナル物(俗に言うジャズソングで、単にジャズバンドが伴奏しているもの)
他にもいろいろ挙げたいけれど、本一冊くらい書いてしまいそうなので、この辺にしておきましょう。
ちなみに、ヒルビリー系のカバーでは、バートン・クレーンがLittle Liza Janeをやっていますし、When It’s Lamp Lightin’ Time In The Valleyなどは何人もカバーしています。こっち方面も面白いですね。
ジャズソングに関するお話、興味深く拝見しています。
Burton Craneの名前が出て来たのが嬉しかったです。彼も私のお気に入りです。
“ヘンな外人” って昔から日本の庶民に人気があったのでしょうか?
ミンストレル起源やヒルビリー系の曲とかカバーしているのを聴くのはワクワクしますね。曲ののっけにIrish Reelの旋律が突撃ラッパみたいなアレンジで唐突に出て来る曲もあったりします。この人のパーソナリティーも素敵なのですが、それ以上にバックバンドに興味大です。「雪ちゃんは魔物だ」(原曲: Frankie & Johnny)のクラリネット? 吹きや、「女の天下」のバンジョー弾きって本当に日本人なのかしら? と思ったりします。
バートン・クレーンのバックバンドは井田一郎編曲のコロムビア・ジャズバンドとなっていますが、服部良一入社前なので、本格的なスイングバンドではなくて、ディキシー的な演奏ですね。井田一郎が元々バンジョー奏者なので、バンジョーが活かされたアレンジが多いと感じます。調べたわけではありませんが、バンジョー奏者はたぶん坂井透(洒落男を作詞した人)ではないでしょうか?角田孝に代わる前だと思います。
同時期のポリドールのバンジョー奏者はさらに凄いです。藤山一郎が「勝敗の唄」という流行歌を入れているのですが、その間奏はバンジョーソロで丸々1コーラス「12番街のラグ」でして、典型的なテナーバンジョーサウンドを聴かせてくれます。間奏だけ聴いたらアチラのジャズにしか聴こえません。
突撃ラッパは「のんきなパパさん」でしょうか。元歌は「It’s A Long Way To Tipperary」というアイルランドの小唄です。第一次大戦でヨーロッパ中の兵隊に流行したらしく、同じ時代の浅草オペラにおいてけっこう日本でも唄われていたようです。
詳しいレス、ありがとうございます。
>バンジョーソロで丸々1コーラス「12番街のラグ」…
これはすごい。聴いてみたいです。当然米国の出稼ぎミュージシャンではなく、てれっきとした戦前の日本人なのですよね?
>突撃ラッパは「のんきなパパさん」でしょうか。
その通りです。「にっぽん娘さん」のオリジナルも第一次世界大戦中に流行った端唄らしいですね。このあたりのオリジナルをいろいろと捜し出すのも愉しそうです。録音としてきっと残っている筈ですから。