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まるごと一冊ウクレレ 補稿Update : 2004/07/02 Fri 20:55

前のトピックで書いた「まるごと一冊ウクレレ」に掲載した僕の文章ですが、元々は1万文字以上書いたモノを、レイアウトの都合で自分で4千文字程度にリライトして、かなり省略した内容となっています。そこで、補稿として、元はどんな文章だったか、少しだけ掲載してみようと思います。

<最初の方です>

僕にとっての「夢のウクレレ」は、簡単に言うと、ギターやマンドリン流の解釈で演奏しても、格好が付く楽器だ。必要に応じて、鉄弦が張れ、フラットピッキングできる必要がある。そして、ある時はウクレレ、ある時はバイオリン、またある時はカバキーニョという具合に、カメレオンみたいに調弦を変えてセットアップできると更に良い。しかし、普通のウクレレはナイロン弦仕様だし、ただでもピッチの良い楽器は珍しいから、この調弦のフレキシブルさは望めない。やっぱり鉄弦仕様が欲しい。

ウクレレを作る時に、一番苦労する作業は、ブリッジの位置決めだろう。調弦を楽に合わせることができる楽器を作るためには、これをちゃんと行なわなくてはならない。しかし、にわかビルダーの僕が、そんなことをやっていると、何度も作り直しになってしまうに違いない。だから、ブリッジはアーチトップギター式で、位置を移動できるタイプ+テイルピースにすることにした。そして、ナイロン弦と鉄弦の併用を考えると、ナットの溝を気にせずに済むゼロ・フレット仕様の指板が良い。と、ここまで考えていくと、僕が普段から弾いているセルマー/マカフェリ・タイプのギターを思いついた。フラットトップで、フレキシブル・ブリッジ、ゼロ・フレットというと、この楽器だ。それならば、いっそ、セルマー/マカフェリのミニチュアをウクレレ・スケールで作ってみようということにした。

<設計の後の方>

普通のウクレレは、ギターに較べて、ブリッジがかなり後方に位置するが、セルマー・タイプはサウンドホールとエンドの丁度真ん中あたりに置く。これは、テイルピースを使うためと、ボディ真ん中にブリッジを置くというマンドリン系楽器の発想からだと思う。(オリジナル・セルマーの設計者、マカフェリ氏はイタリア出身だから、マンドリン・バイオリン系に造詣が深かったはずだ。)その仕様を踏襲するために、今回設計した楽器は、通常のウクレレと較べてボディが一回り大きくなった。ウクレレでいうとテナー・サイズだ。しかし、スケールは通常とほぼ同じ長さであるため、ウクレレを見慣れた目で見ると、違和感があるかもしれない。狙いは、ギターぽく演奏することだから、これは問題としないことにした。弦長の360ミリは、ギブソン系のフラットマンドリンにも近いため、マンドリン・チューニングでテンションを強くしても大丈夫なように、強度も考慮せざるを得ないだろう。そのため、今回はネックのジョイントを12フレットで行なうことにした。これで、ネックの強度が若干保たれるし、カッタウェイ・ボディだから、短いネックでもプレイヤビリティに問題は無いだろう。

<カマボコ板に紙ヤスリを張るところ>

(僕の連れ合いが小田原出身ということで、カマボコには少しうるさい。マイナーな「丸う」の方が断然トラディショナルで美味しいのだが、ヤスリ用には、「鈴広」の方が手に馴染む板を採用している。)

<サイドの曲げ作業の中>

側板の材料も、厚さ2.7ミリではうまく曲がらないような気がしたので、薄くすることにした。裏板を削る時のサンドペーパーで懲りているので、近所のDIYで小型の鉋を買ってきた。馴れない鉋がけだが、なんとか厚さ2ミリ以下になった。気を良くして、続けて曲げ作業をすることにした。ベンディング(曲げ)作業は、薄い材料に熱を加えながら曲げて行くわけで、専用のベンディング・アイロンという道具を「普通は」使う。しかし、例によって道具を持たない僕は、家庭用のアイロンと固定した半田ゴテで、これを行なうことにした。こんな道具でもなんとかなるもので、アールのきつい2箇所ほどを割ってしまったが、概ねうまくいったようだ。割ったところは仮に接着しておいて、仕上げの時に割れ目を埋めることにする。作るウクレレは売り物ではないので、このあたりはアバウトで気が楽である。ちなみに、普通は左右2枚の側板を使うのだが、今回の楽器は1枚で作った。

ベンディングが終わったら、いよいよモールドに側板を固定する。先に作っておいたネックブロックとエンドブロックも、接着する。接着剤は15年前に買ってから、まだ半分以上残っている、Franklin社のTitebondだ。普通の木工ボンドと違って、乾くとニカワのような色になる。また、接着力も強い。今回の楽器は特殊なカッタウェイ・ボディだから、ネックブロックの固定をしっかりやることにした。

<裏板組み付け>

僕の性格のためか、材料を接着して乾燥させるために、数日そのまま置いておく時間が耐えられない。待っていられないのだ。待たなければ仕方が無いのだが、その間に何かをやっていないと時間がもったいない気がする。僕は三代以上続いた江戸っ子の末裔だが、大阪生まれの大阪育ちなのだ。江戸のセッカチ、浪速のイラチがフュージョンしたというのだろうか。始末に終えない。というわけで、裏板を接着できた側板からクランプを外し、裏板と側板のツラを合わすことにした。これもまた、鉋とサンドペーパーでじっくり作業する。その後、ついでに側板の表面を滑らかに仕上げるためにサンドペーパーを当てた。半田ゴテやアイロンで曲げた側板のアールは思ったよりガタガタしている。曲げた側板の、特に腰のくびれた部分はカマボコ板に張ったサンドペーパーを当てにくいので、そこだけはカマボコ板無しのフリーハンドにした。カエデ材のトラ目が美しく映えるまで、磨き上げるのに結構時間がかかり、丸一日をこの作業に費やしてしまった。おかげで、体中が痛い。普段使わない筋肉を使ったからだ。

<表板加工のところ>

今回、表板のスプルース材は、Acoustic Worldの岩本氏のご厚意で、製材して30年ほど経ったものを提供していただいた。木目は美しくないのだが、すでに枯れきった感のある材料には、何の問題も無いはずだ。4ミリ厚以上ある材を、ドラムサンダーで2.7ミリ程度まで削って頂き、割れないよう大事に持ち帰った。今回の楽器は、表板も左右2枚を真ん中で接ぐのだが、密着させないといけない接合面の仕上げに苦労しつつ、裏板同様に接着〜クランプした。

<誌面では省略した、指板の件り>

ネック材の接着が完了してクランプを外すまでに、指板の準備をすることにした。Stewart-MacDonald社から仕入れたエボニー材のマンドリン用指板から、設計図に基づいて切り出す。ギブソン仕様のマンドリンスケールは、ほぼウクレレと同じであるため、この材料を仕入れたのだが、それ以前に、Stewart-MacDonald社のマンドリン指板は、世界中のメーカーやマンドリン製作者が流用していると思われる、スタンダードな製品であり、かなりクオリティの高い材料だからという理由もある。しかし、今回困ったことに、マンドリン用指板であるために、ゼロフレットを打つ部分が無いのだ。そこで、切り落としたハイポジション側を整形して、ゼロフレット側に接ぐことにした。

ネックがボディに接着〜固定されている間、指板の仕上げをした。ポジションマークをインレイし、400番のペーパーで磨いた。そして、フレットを打ち込む。フレットは、鉄弦でも長持ちするように、もう15年在庫しているアコースティックギター用のものを使用した。僕は、バンジョーもギターも全てこのフレットを使っている。長めに打ち込んだフレットの両端をカットし、目立てヤスリとサンドペーパーで揃えた後、メタルポリッシュでフレットと指板全体を研磨しておく。

<誌面で省略した、バインディング接着の件り>

セルマーに倣って、ボディに木製バインディングを入れることにした。ただし、ウクレレなので、シンプルにローズウッド一層のみとした。ボディにバインディングの溝0.6ミリを彫るのは、あまりにも精密で、ノミと鉋だけでやるには大変なので、お世話になっているAcoustic Worldの岩本氏の所へ出向き、ドレメルとバインディング用の治具をお借りして作業した。作業を終え、帰ってきて早速ロースウッドを接着し、マスキングテープで固定した。

<一番最後のところ>

さて、いよいよパーツを組み付けて、弦を張り音を鳴らす感動の瞬間だ。ウクレレとして生まれる楽器に敬意を表してナイロン弦を張ってみた。しかし、残念ながら、この楽器はナイロン弦には向いていないようだ。ソプラノスケールだが、コロコロとしたサウンドにならない。弦がペチャペチャした感じだ。安物のウクレレよりは、芯のあるサウンドだが、音量が出ない。気を取り直して鉄弦を張り、マンドリン調弦にしてみた。ギブソン型のマンドリンよりもファットなサウンドでありながら、単弦であるために切れも良い。さらに少し太い弦に替えて、マンドラ調弦にしてみたところ、これがボリューム、サウンド共、この楽器に最もフィットしているようだ。塗装がさらに落ち着いて、楽器も乾燥してきたら、また違った感触になるものと思われる。なにはともあれ、完成だ。

いざ完成してみたら、この楽器を入れられるケースが無いことが分かった。普通のウクレレのケースではサイズが合わないのだ。残念ながらテナー用でも入らない。そこで、昔良く見たフラットマンドリン用の角型ケースを探したのだが、現在は国内では見つけるのが難しいようだ。そこで、用途を問わずに丁度良い大きさの角型ケースをネットで探したところ、エフェクター用のケースを見つけた。ネットオークションで格安で新品を落札し、内装を自分でやることで専用ケースを得ることができた。

<以上です>

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