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ジャズやブルーグラスの場合、いわゆるポップスではないので、演奏会場の雰囲気はちょっと特殊かもしれません。
バンドが好きな曲を演奏して、オーディエンスは自由に聴く、という当たり前の楽しみ方は、ジャズ、ブルーグラスに限らず、どんなジャンルでも、全然不自然ではありません。時には、バンドはオーディエンスを喜ばすことに演奏する生き甲斐を感じたりもするでしょう。あるいは、バンドは自分たちが昇天することにのみ全精力を注ぐでしょう。昇天するミュージシャンを見るのが好きなオーディエンスもいるだろうし、一緒に昇天することを期待しているオーディエンスもきっとその場に居るに違いありません。
ピアノの発表会や学芸会とは違うのだということです。バンドやミュージシャン個人は少なからず表現をするという意識がありますし、オーディエンスはその場に居ることで、癒されたいとか、興奮したいとか、ある種の性的な欲求を満たしているわけです。
つまり、(言葉は過激かもしれませんが、)セックス・アピールがその場にあるということなんです。
しかしながら、セックス・アピールだけでステージをやって、オーディエンスもそれだけを求めるというのは、ジャリのコンサートと同じです。少なくとも、僕らの関わっているような音楽では、例えば、落語の寄席に通うようなマナーや儀礼、スキルがあった方が良いし、演者側はお客がそういう楽しみ方をしてくれることを少なからず暗に求めています。(もちろん、チャージを払って来てくれるお客さんに対して、強制的にこれらを求めるという高圧的な姿勢を見せることは無いのですが…。)
つまり、演者側やコアな聴衆からの勝手な要求なんですが、その場でそういう音楽を楽しみに来るということは、そういう音楽やバンド、ミュージシャンのバックボーンを理解して、ある種の共通言語が理解できて欲しいということなんです。無理にとは言いませんが、そうすることで、さらにセックス・アピールがお互いに有効になるわけで、オーディエンスにとっても得だと思うのです。これは、歌詞を聴かす音楽ではない、ルーツ・ミュージックをベースにしているジャンルの限界なんですが、前述の落語的理解力がバンドにもお客にもあった方が良いのです。初めて見るライブやバンドじゃしかたがないけど、次回には、少しでもネタを仕込んでおくと、チャージ払う側は更に楽しめると思います。
さて、話は変わりますが、ニューオリンズにあるトラディショナルなジャズを聴かせるようなクラブでは、「聖者の行進」をリクエストするとリクエスト料(チップ)を10倍払わないといけないという暗黙のルールがあるようです。この手のリクエストをする人はほとんどが観光客で、普段はトラッド・ジャズなんか聴かない人です。野暮なリクエストというわけですね。似たような話は、都会のジャズクラブでもあって、「メランコリーベイビー」のリクエストはお断わり、というようなことです。こういうお客にならないようにするのも、ライブ会場に居るためのマナーかもしれません。
まあ、僕はあなたのためなら、「Foggy Mountain Breakdown」を何回弾いても苦痛ではないですよ。たまにはビールでも奢って頂ければもっとうれしいですけどね…。