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ライブ〜ライブ〜ジャムと大阪で週末3日間を楽しんできました。
金曜日の朝、7時10分東京駅発の高速バスで大阪に向かいました。道中8時間ということで、乗車中に睡眠を取るべく、前夜は貫徹しました。おかげで、8時間はそんなに長くは感じず、浜名湖SAでの休憩停車まで、ゆっくりと寝ることができました。深夜バスは何度も乗っていますが、昼間のバスは初めてで、これが意外と快適でした。まず、乗車率が低いので、座席をゆったりと使えたのが良かったです。そして、長丁場では食事が必要になるのですが、深夜のサービスエリアでは弁当を買うことができず、乗車時に用意する必要があります。しかしながら、昼間ですとこの問題が解決し、サービスエリアで弁当を買えます。浜名湖SAで鰻弁当を買って食べたのは言うまでもありません。(ただ、浜名湖の鰻はそんなに美味しくないというのは前から知ってましたけれど…。)
夕方、大阪駅着で、ライブの現場であるフィドルクラブには4時前に着きました。一緒に演奏する川瀬さんと山本さんが来たので、演奏曲やアレンジの簡単な打ち合わせを兼ねて、少し楽器を合わせました。僕としては、ジプシージャズを専門に演奏する人と合奏するのは8月のジャンゴフェス以来でしたから、少し緊張しました。演奏前にビールを少しいただいて緊張も解けましたが、なぜかMCを担当することになって、曲間でボーッとできませんから、かなり苦しい演奏をしてしまったと思います。録音があったら聴いてみたいものです。持ってる人は送ってください。
その夜、南森町にある無花果というカフェ・バーに川瀬さんとお邪魔しました。無花果は翌々日にオールドタイムのジャム・パーティーがあるお店です。カウンターに入っているオーナーのひりこさんとぐんちゃんに挨拶し、翌々日も来るということを伝え、その日は早々に失礼しました。実家に泊まりました。
日曜日のオールドタイムのジャムに遠路東京から参加するために下阪してきた黒川かほるさんと、土曜日夕方に大阪駅で合流しました。そこへ、その夜一緒に演奏する山本さんが車で迎えに来てくださり、長堀にあるストリングフォニックという楽器屋に行きました。通称ストフォニと呼ばれるこのお店は、ジプシージャズ御用達の楽器屋といううことで、Martinや5弦バンジョーは全く置いてありません。セルマータイプのギターとフルアコだけを専門にご商売されています。置いている弦も東京では見かけないジプシー専用弦ばかりで、GHSのを3セット買いました。黒川さんはあっけにとられていたようです。
長堀から再び車に乗って、その夜のライブ会場である、お好み焼き屋「じゃんご」に向かいました。外からは、大阪によくある普通の町のお好み屋にしか見えませんが、一歩中に入ると、どこを見渡してもジャンゴ・ラインハルト…(絶句)。主人の菊池さんに暖かく迎え入れられて、演奏前に、入魂のお好み焼きをいただきました。お好み焼きも、大阪の北の方で食べるものとは少し違い、粉に水を入れて溶かない焼き方でした。つまり、キャベツやネギなどの水分だけを使った、野菜の発酵した味が薫り高く、ソースと本体が絶妙のバランスを持った一品です。実は、東京で一緒にバンドをやっているGというフィドラーの奥方が西成出身で、Gさんのお好みの焼き方で、この手のお好み焼きが大阪にあることを数年前に知りました。(僕は北の方の出身なので、自分がやるときは粉は溶きます。)それをプロの味でいただけたことは、今回の浪速ツアーの収穫でした。
お好み焼き屋さんでの演奏の方は、ギター・デュオということですし、最近知り合ったばかりのお互いが一緒に演奏する機会も年に一回あるかないかということで、お互いに普段は演奏しない曲をリストアップして進めました。綱渡りのような演奏でしたが、珍しい美味しい焼酎を戴きながらの演奏で僕はとてもハッピーになりました。また、初めての試みとして、それぞれギターソロを一曲ずつやりましょう、ということも刺激になりました。山本さんはケニー・バレルのバラードをジプシー風味で華麗に演奏してくれました。僕は、自分の畑であるブルーグラスからドック・ワトソンの短いソロをメドレーし、最後に自分のアレンジでTiger Ragを演奏しました。たまにはこういうのも良いでしょう。
黒川さんがせっかく来てくれているので、ジプシー好きな皆さんにもオールドタイム・フィドルを聴いてもらいたいと思い、数曲僕が伴奏できる曲をデュオで演奏してもらいました。黒川さんは、実は日本では唯一の受賞フィドラーなんです。劇団昴が日本で初めてスタインベックの怒りの葡萄を芝居に掛けましたが、その中で冒頭から登場し、ストーリーテラーをフィドルのメロディで行なうという重要な役割を果たしました。そのお芝居が芸術祭大賞を受賞したというわけです。今夏も関西で興行を行ない、彼女のフィドリングも一層上手になっていました。
ライブ終了後も遅くまで、店主の菊池さんが特性の料理で僕らにサービスして下さり、その上、オリジナル焼酎「ジャンゴ」をおみやげにいただきました。何から何までのお心遣いを感謝したいと思います。また、お店の近くに住んでいる、20年来の友人である栗田君も聴きに来てくれてうれしかったです。彼とは、チンドン屋で知り合ったのですが、熱狂的なジャズ・マニア&コレクター、特にステファン・グラッペリのファンで、グラッペリ来日時には、一緒に楽屋に入ってサインを貰ったことが懐かしいです。たしか、1990年です。
その夜は、行列ができる中華料理屋を経営する知人のところに黒川さんを預け、僕は実家に戻りました。翌朝、携帯に彼女から呼び出しがあり、オールドタイムのジャムに一緒に参加するため、中華料理屋「可門」に迎えに行きました。開店前の仕込み真っ最中で忙しい中華料理屋ですが、主人の娘にせがまれ何曲かフィドル&バンジョーを演奏しました。実は、店主の清水さんはブルーグラス・プレイヤーでバンジョーとギターを演奏し、奥方は珍しい女性ドブロ・プレイヤーです。その10歳になる娘は親戚の同い年の女の子と一緒にバンドを始め、バンジョーを弾きだしたとのことで、他人の本格的な演奏に興味津々でした。
日曜の午後、清水さんに車で送ってもらい、南森町の無花果に行きました。すでにBOMサービスの秋元さんとパーティーのホストであるバスコ高木さんがカウンターでくつろいでいました。雑談で盛り上がっているうちに、午後2時からジャムが一斉に始まりました。オールドタイムは、本当の意味では、ブルーグラスが発生する以前の音楽のことを指すのですが、今日では、ブルーグラス以前の演奏スタイルを現在に伝えるジャンルだと考えて良いでしょう。ブルーグラス発生以後は、フーテナニーの影響もあって、北部のインテリがその啓蒙に努めたりもしましたが、アパラチア山間部で現在でも伝承されているトラディショナルな音楽でもあります。
オールドタイムの演奏は、基本的にはフィドルが全てをリードし、その他の楽器のソロはありません。フィドルのリードにバンジョーがユニゾンで追従するというのが一般的なスタイルです。ギターやマンドリンはオールドタイム的には新しい楽器で、それらが入った編成はストリングバンドと呼ばれます。ギターやマンドリンは原始的ながら、ブルーグラスと同様の奏法で演奏しますが、フィドルやバンジョーのグルーブを支えるために、ブルーグラス風のシンコペーションを取り入れた演奏はあまり行ないません。これらが一体化し、延々とコーラスを重ね、やがて大きくうねるグルーブが生まれます。元々のダンスの伴奏としての器楽演奏から、このようなグルービーなスタイルが伝承されているのだと思います。
ジャムは3時間ほどでお開きになりましたが、秋元さん、バスコさん、黒川さん、僕で遅くまで談笑しました。また、僕は最終の深夜バスの発車時刻まで秋元さんに付き合ってもらい、無花果で飲んだくれました。
楽しい3日間でした。