My Own Musical Instruments

Dupont VRB (s/n #065 2005)

dupont vrb #065

日本国内での販売総代理店が設定した新品額面定価が120万円という非常識な楽器を、2010年秋、ひょんなことで入手しました。

モデル名のVRはVielle Réserveの略で、メーカーのDupontはフランスのCognac地方に在り、同所に大きなブドウ農園を持ちワインやコニャックも生産していて、その最高の格付の意味で、ブランデーならV.S.O.P.とかそういうような感じらしいです。モデル名の最後のBはブラジリアンという意味で、ハカランダ材をボディに使用しています。ただのVRモデルはインディアン・ローズウッドが使われています。

Dupontの通常生産モデルの倍以上の売価が付けられたこのモデル、値段にはそれだけの理由があります。かつてのセルマー社ギター工場が1952年に生産から撤退した時にストックしていた材料は、同じフランスのDi Mauro社に当時譲渡されましたが、そのDi Mauroも現在は楽器を生産しておらず、残った材料はDupont社が全て入手しストックしており、この材料を使った少量生産モデルがVR(VRB)モデルです。

さらに、設計や工法もセルマー社が行っていた方法にできるだけ近い方法で行われているようで、つまり、オリジナル・セルマーギターと同じ材料で同じ工程で作られている楽器ということです。フランス・セルマー社のオリジナル・セルマーギターを香りや雰囲気まで忠実に再現しています。

元々はDupont社がBireli Lagreneのために特別に数本開発したカスタムモデルだそうですが、日本の代理店の大量発注のお陰で、国内には数十本入ったようです。僕はそのオコボレに預かったわけですね。

ピッキングした時の表板の跳ね返りがヴィンテージギターの特徴のひとつだということが、例えば、フラットトップギターの銘器、オールドMartinのオーナーなら分かると思いますが、驚くべきことに、この楽器は新品でありながらその特徴を既に持っています。薄い表板とスチームプレスしたアーチトップ構造、それにフレンチポリッシュ塗装がその効果を出しているものと思います。もちろん、音量もそこそこ有りますし、何より、普及品セルマーレプリカでは出にくい低音もしっかり出るのがアドバンテージだと思います。

最近ではフィンランドのAJLやフランスのJean Baraultがオリジナルセルマーに忠実な楽器を生産し、そんなに高価ではないのに楽器そのものの鳴りも良く大変評判ですが、Dupont VR(VRB)は材料までオリジナルセルマーと同じという意味で、まだ若干所有ステイタスが上と感じます。

アメリカのギターはヴィンテージでもセルロイドやプラスチック、塩ビなどの化工品を材料の一部に使っていますが、セルマーギターはペグボタン以外には一切そういう人工的なマテリアルを使っていません。その通りの仕様をこのモデルは受け継いでいます。

Bireli Lagreneがこのステージで弾いているのがVRBの最初の5台のうちの1台。

どういうサービスなのか理解に苦しみますが、VRやVRBモデルを買うと同じシリアル番号が刻印されたコニャックも一本付いてきます。楽器を転売するときのために飲めずに居ます。

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