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1980年代以降に出現した欧州のジプシーの若者たちのバンドが、1930年代のDjango ReinhardtとStephane Grappelliのジャズ演奏をお手本にして演奏しているのが、ジプシージャズであると本サイトでは大きく括りました。(此処と此処と此処に書きました。)
では、1930年代のDjango ReinhardtとStephane Grappelliは、どんな音楽を聴いてあのような演奏をしたのかというと、多くは当時のアメリカのジャズ、今で言うトラッドジャズなのですが、とりわけ、バイオリンとギターのコンビということで、間違いなくJoe VenutiとEddie Langの演奏にヒントを得ているはずです。
Joe Venuti and his Blue Four、1930年11月12日ニューヨーク録音
インドネシアでもアルゼンチンでも世界中にバイオリンとギターの音楽は存在していて、DjangoとStephaneはたまたま欧州でニューヨークのジャズからインスパイアされましたが、アメリカ国内にはそれこそ数えきれないくらいのバイオリン+ギターのチームがありましたので、VenutiとLangからインスパイアされてジャズ的な演奏を行ったチームが数多くあります。それは現在進行形でもあるので、欧州のジプシージャズとは違う系で発展しているもうひとつの弦楽器ジャズだと言えます。もちろんそれらはお里も違うのでジプシージャズではありませんが、いくつか紹介してみましょう。
トラッドジャズの括りでは、Stuff SmithやEddie SouthらのジャズバイオリニストがJoe Venutiと同世代で活躍しましたが、ギタリストとのコンビという意味では、トラッドジャズ以外に系譜を追うと面白いです。主に、今で言うカントリーの世界では、元々が欧州からの移民が持ってきたフィドル・ミュージックをギター伴奏するルーツがありますので、VenutiとLangの演奏スタイルが取り入れられてウエスタンスイングとして進化したジャンルがあります。
ウエスタンスイングの最も古いバンドのひとつ、Light Crust Doughboysの1936年のラジオ録音からは、欧州で同時期にDjangoとStephaneがカバーしたジャズとほぼ同じ手法で料理された演奏を聴けます。
次のThe Farr Brothersはウエスタンスイングとはちょっと違って、ハリウッドの西部劇映画の音楽などをやっていたカウボーイコーラスのSons Of The Pioneersのメンバーです。録音メンバーはそのままSons Of The Pioneersですが、インストゥルメンタルを演るときはバイオリンとギターの兄弟の名前をフィーチャーしたようです。
The Farr Brothers、1935年のラジオ用録音から。
ウエスタンスイングやカウボーイコーラスとは全く違う、アパラチア山出し音楽の出身で都会で洗練され、ついにはノベルティ・ポップスとでも呼べるストリングバンド演奏をしたフィドラーClayton McMichenのGeorgia Wildcatsもサウンドが同じ系統に聴こえます。
Georgia Wildcats、1937年7月22日ニューヨーク録音。
フィドル(バイオリン)のこの手のスイング演奏の名手は、ウエスタンスイング・バンドの数以上に居ますので、このページで多くを網羅するのが不毛な作業となります。同じく、ウエスタンスイングのギタリストについても同様です。ご興味を持たれましたら、動画サイトでWestern Swing等のキーワードを使って検索してみてください。
ジャズ方面では、欧州のDjango & Stephaneからの逆輸入のような感じで、ジャズメンによる弦楽器のアンサンブルが企画されることもあったようです。
Paul Whiteman’s Swing Strings、1938年11月15日の録音。ギターソロはArt Ryersonで、Djangoのような演奏に聴こえます。
バイオリン方面はJoe Venutiという巨人がずっと現役でしたので、ギター方面に興味が移ります。
単弦でソロを取るギタリストはウエスタンスイング方面では珍しくもないことでした。ジャズ方面よりも早くから電気ギターを取り入れていたウエスタンスイングからは、Les PaulやGeorge Barnesという歴史的なジャズ・ギタリストを輩出しています。
電気ギターのLes PaulとバイオリンのJoe Venutiが組んだ珍しい1944年のハリウッドでのセッション。
しかしながら、アコースティック・ギターの単弦でソロを取る、前述のArt Ryersonのようなギタリストが時折出現しました。また、譜面を弾くというよりもインプロヴァイズしてスイングするという意味で、ややブルース寄りながらTeddy Bunnのギター演奏は欧州のDjangoと同じエモーションを感じる瞬間があります。
Johnny Doods and his Orchestra、1938年ニューヨークのセッションから。ギターはTeddy Bunn。
Nat King Coleは美声歌手として後にブレークしますが、駆け出しの頃はトリオ編成で凄腕のピアノを聴かせました。Nat King Cole Trioでは電気ギターOscar Mooreの職人的演奏を思い出しますが、結成初期はアコースティック・ギターを弾いていました。本人が語るようにDjangoからの影響はかなりのものです。
Nat King Cole Trio、1939年5月のラジオ録音から。ギターはOscar Mooreです。
ジャズ方面は1939年のCharlie Christianの登場以来、ギタリストは電気ギター使用が普通になり、モダンジャズの時代に繋がります。カントリー方面では元々ウエスタンスイングで早くから電気ギター使用が珍しく無かったのですが、Charlie Christianの登場後もChristianの影響は殆ど無く、逆にDjango Reinhardtの影響が色濃く出ました。その中でも後々までアコースティックを貫くArthur “Guitar” Smithはロカビリーギターの嚆矢となるGuitar Boogieのヒット曲を持つスター・ギタリストでした。
Arthur “Guitar” Smith、1945年11月ニューヨークでの録音。
Django没後、1980年代にジプシージャズが定義されるまでの間、Djangoスタイルのギターが最も色濃く継承されたのは、フランスよりもアメリカのカントリーギターの世界だと言えます。カントリーギターの第一人者であるChet Atkinsが強力なフォロワーであったこともあり、DjangoとStephaneの演奏を理解することがカントリーミュージシャンの教養とも考えられていたようです。
Chet Atkins、1954年9月27日のナッシュビル録音。バイオリンはDale Potter。
Chet Atkinsと義兄弟の契りを交わしていたこのコンビ、Homer and Jethroは、コメディアンなのにインストゥルメンタルの演奏ではカントリーミュージシャンとは全く思えません。
時代は下って1970年代、カントリーではなくもっとニッチなアコースティック音楽であるブルーグラスの世界から、DjangoとStephaneの演奏に傾倒していく動きがありました。なかでもDAWGミュージックを創りだしたDavid Grismanはその筆頭で、70年代中頃には御大Stephane Grappelliとコラボするようになりました。1978年の映画「King Of Gypsy」ではジプシー楽団員として両者とそのバンドメンバーが劇中に登場しています。いわゆるジプシージャズとは程遠いサウンドですが、弦楽器でスイングさせるというベクトルが同じように思います。(DAWGミュージックはまたこれとは違うサウンドです)
1979年、TVショーのゲストとして演奏したDavid GrismanとStephane Drappelli。
ポップスの世界で、1960年代終わりからつい最近まで、Django & Stephane風のバンドHot Licksを率いたのは、シンガーソングライターのDan Hicksです。ジャジーでエキゾチックな編曲に乗せたオリジナル歌は彼の独壇場でしたが、惜しくも今年亡くなりました。一時期マカフェリ型ギターでソロを弾いていたPaul Mehlingは、後にHot Club Of San Franciscoを結成し、アメリカ国内のジプシージャズをリードしています。
Dan Hicks and the Hot Licks、1989年のステージ映像。
世紀の変わり目、この「ギター弾きの恋(Sweet And Low Down)」という映画の中でDjango Reinhardtが紹介されたおかげで、全世界的にジプシージャズが認知されました。同時にDjangoがジプシージャズの創始者だという誤解も生まれました。(演奏はHoward Aldenがギターで、全くジプシージャズではありませんが。。。)
今世紀初めにはジプシージャズの世界的ブームの中、古参のジャズメンもバイオリンとギターのアコースティックなジャズ演奏を表立って行うようになりました。
Johnny Frigo with Bucky & John Pizzarelli、2003年のアルバムから。
もちろんカントリー方面でもDjango & Stephaneではなく、新興のジプシージャズが認知され、ナッシュビルでもこんな演奏が繰り広げられます。
フィンガーギタリストRichard Smith率いるHot Club Of Nashvilleの最近のライブから。
John Jorgensonは元々ブルーグラスのマンドリン奏者で東京ディズニーランドで演奏していたこともありますが、クラリネットの名手でもあったり、エレキギターを弾いてロックグループでグラミー受賞したこともある多彩なミュージシャンです。1980年代中頃にリリースしたデビューソロアルバムは、マカフェリ型ギターでジプシージャズを演奏しました。アメリカ国内で1、2を争うジプシージャズ・ギタリストです。
John Jorgenson Quintet、2015年8月8日のライブ映像。
戦前ジャズ音楽を再現するエンターテイナー歌手Janet Kleinのバンドには、Eddie Lang風あるいはDjango Reinhardt風のギタリストがいつも同伴しています。
Janet Klein and her Parlor BoysのPV。
まだまだ紹介したいものがありますが、Youtubeに素材がないので、今回はここまで。
また機会を改めてポストします。